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山口大学のPRIME技術を応用し固形がんを対象としたCAR-T細胞療法の開発とその技術ライセンスを製薬会社に提供する
有価証券報告書(2025-12期)からの抜粋。
3
※1)に対するCAR-T細胞療法(
※2)の開発を主たる事業領域として事業を展開しております。 固形がんに対する安全かつ有効な治療薬の開発は世界的に求められている課題であり、高いニーズがあります。当社は、山口大学及び同大学の技術移転機関である有限会社山口ティー・エル・オー(以下、山口TLO)から独占的に導入したPRIME技術(
※3)を応用したCAR-T細胞という最新のがん免疫療法を介してこの課題を克服することを目指し、事業を展開しております。PRIME技術は、投与するCAR-T細胞のみならず「患者の体内の免疫細胞」を活性化することで優れたがん治療効果を期待することができ、がん免疫応答を利用する多様な細胞医薬品や遺伝子治療を含めた幅広い再生医療の分野に応用できる可能性を有するプラットフォーム技術であります。当社は、プラットフォーム技術であるPRIME技術に固形がんが発現する様々な抗原を標的とした治療技術を組み合わせることにより、固形がんの治療を目的とした様々な遺伝子改変免疫細胞療法を開発しております。 当社は、自社が主導して創生する「自社創薬」に加えて、PRIME技術を他社にライセンスして医薬品開発を進める「共同パイプライン」の2つの事業モデルを有するハイブリッドビジネスモデルを構築しております。これら事業展開により、PRIME技術の市場への展開や周知を加速化して早期の収益確保を図ると同時に、長期的には自社創薬により大型の販売収益を確保することにより、事業全体のリスク分散とサステナブルな成長を目指しております。 なお、当社はがん免疫療法創薬事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の情報は記載を省略しております。 (1)当社の事業領域 日本国内において、がんの死亡数と罹患数は、人口の高齢化を主な要因として男女ともに増加し続けており、2024年のがん死亡数は約38万4千人、2021年のがん罹患数は約98万9千人と報告されております(出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)、国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録))。日本人が生涯でがんに罹患する確率は、2021年データにおいて、男性で63%、女性で51%とされており(出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(累積罹患リスク(グラフデータベース)))、また、各がん腫の5年生存率は、特にステージの進んだがんにおいて依然として低く、がんに対する効果的な治療法の開発や普及は極めて重要な社会的課題と言えます。これまで以上に有効性の高い革新的がん治療法の登場は日本のみならず、世界中で強く期待されております。医薬品事業の観点においても、がん領域は極めて大きな市場であり、多くのUnmet medical needs(
※4)が存在します。 従来、がんに対する治療法は外科療法、化学療法(抗がん剤)、放射線療法が主な方法でしたが、現在では、免疫の力を利用してがんを攻撃する「がん免疫療法」が重要な治療法の一つとして確立されています。本来、免疫システムはウイルスや細菌など、自分自身以外の異物を認識し、排除する働きを有しており、がん細胞を認識し排除する能力もあることが知られております。この能力を回復させたり、増強させたりすることでがんの治療を目指す創薬技術が「がん免疫療法」です。特に、2018年のノーベル生理学・医学賞の受賞により注目を浴びた免疫チェックポイント阻害薬(
※5)の開発により、がん免疫療法は大きな発展を遂げました。従来のがん治療法では延命や根治することが難しかった進行がんに対して免疫チェックポイント阻害薬が治療効果を発揮しうることがわかっており、その適応範囲は世界中で拡大しております。2024年の世界の医薬品市場において、免疫チェックポイント阻害薬の合計売上高は約600億ドルと報告されており、がん領域治療薬全体の1/4近くを占めています(出典:IQVIA Institute, Global Oncology Trends 2025)。 しかしながら、免疫チェックポイント阻害薬にはまだ多くの課題があります。免疫チェックポイント阻害薬は全てのがんに対して治療効果を発揮できるわけではなく、また治療効果が得られたとしても単剤での有効性は10-30%程度と言われております(出典:Clin Cancer Res. 2020 Sep 15;26 (18): 4842-4851)。免疫チェックポイント阻害薬の効果がみられない患者では、がん細胞を攻撃する免疫細胞の能力が十分に回復・増強されていない状況であり、さらに強力で、かつ、免疫チェックポイント阻害薬とは異なる働きでがんを攻撃できるような新たな免疫療法が必要とされており、「CAR-T細胞療法」等にかかる研究開発が拡大しております。 (CAR-T細胞療法について) 免疫チェックポイント阻害薬は「免疫のブレーキを解除する」ことで免疫細胞、特にT細胞(
※6)の能力を高めてがん細胞を攻撃する治療法ですが、それとは異なるアプローチとして、遺伝子改変技術(
※7)を用いて「T細胞の能力を直接的に増強する」ことでがん細胞を攻撃する方法が「遺伝子改変T細胞療法」です。特に、体外に取り出したT細胞に、がん細胞表面のがん抗原(
※8)を認識するCAR(Chimeric Antigen Receptor:キメラ抗原受容体)遺伝子を導入することでCAR-T細胞を作製し、当該CAR-T細胞を大量に増やしてから患者に投与する「CAR-T細胞療法」が高い注目を集めております(図1)。CARは、がん細胞を認識する抗体由来の部分と、T細胞の強い活性化を誘導するシグナル伝達部分、及びこの両者をつなぐ部分からなる人工的受容体(
※9)で、CAR-T細胞は、がん細胞を見つけると強く活性化し、がん細胞を攻撃する一方で、がん抗原を持っていない正常細胞は攻撃しない、という特徴を有しております。 図1. CAR-T細胞療法のしくみ体外に取り出したT細胞にCAR遺伝子を導入したうえで培養し、大量のCAR-T細胞を作製して投与します。CAR遺伝子はがんを認識する細胞外の抗体部分とT細胞のがん攻撃能力を高めるための細胞内シグナル部分から構成されます。 (通常型CAR-T細胞療法の課題)CAR-T細胞療法は、血液がん(
※10)に対して非常に高い有効性が実証されており、日本を含めた複数の国で既に医薬品として承認され、従来の治療法では効果のない患者に対して高い治療効果を示しております。しかしながら、血液がん以外の固形がんに対しては有効性が確立されておらず、さらに技術改良を進めた次世代型CAR-T細胞の技術開発及び臨床応用が急務とされております。CAR-T細胞が血液がんに対して有効である一方、固形がんには効果を発揮しにくい原因として、塊を作らずに血管内やリンパ管内で増えていく血液がんではCAR-T細胞が一対一でがん細胞を攻撃できるのに対し、固形がんは塊として臓器の中でがん細胞が増えていくため、がん組織の内部にまでCAR-T細胞が到達することが難しい、ということが考えられます(図2)。また、血液がんはCAR-T細胞の標的となるがん抗原を均一に持っておりますが、固形がんではがん抗原が不均一にしか出ておらず、CAR-T細胞のみで全てのがん細胞を攻撃するのが難しい、という原因が知られております。固形がんは全てのがんの約9割を占めており(出典:WHO Cancer Tomorrow)、固形がんに対して有効性を発揮しうる技術を有する次世代型CAR-T細胞療法が開発されれば、がん治療薬市場に大きな影響を与えるものと考えられます。なお、近時、CAR-T細胞療法が固形がんに対して一定の有効性及び安全性を示す研究結果も示されており(Claudin 18.2標的CAR-T細胞に関する第I相臨床試験の最終結果。Nature Medicine volume 30, pages2224–2234 (2024) )、固形がんの治療に対するCAR-T細胞療法の可能性を示していると考えております。 図2. CAR-T細胞療法によるがん治療効果現在使われている通常のCAR-T細胞療法は、血液がんに対しては優れた有効性を発揮する一方、がんの約9割を占める固形がんに対しては有効性が弱く、新たな技術開発が求められております。 (2)PRIME CAR-T細胞療法 当社は、固形がんに対して効果を発揮する次世代型CAR-T細胞を創薬するために、当社代表取締役であり山口大学教授の玉田らが開発した「PRIME技術」を応用しております。PRIME技術とは、免疫細胞の活性化や集積を誘導するサイトカイン(
※11)やケモカイン(
※12)を産生するようにCAR-T細胞などの免疫細胞に更なる遺伝子改変を加えた技術であり、当社はPRIME技術を搭載したCAR-T細胞療法を「PRIME CAR-T細胞療法」と称しております。当社では、インターロイキン7(IL-7: interleukin-7)というサイトカインとchemokine (C-C motif) ligand 19(CCL19)というケモカインを同時に産生するPRIME CAR-T細胞を複数開発しており、これまでの様々な動物実験において、固形がんに対して従来のCAR-T細胞と比べて高い効果を発揮することが示されております。これらのデータは玉田らのグループによりNature Biotechnology誌で発表されました。 PRIME CAR-T細胞では固形がんの局所でCAR-T細胞自身がIL-7とCCL19を産生するように遺伝子改変しております(図3)。CCL19はT細胞や抗原提示細胞(
※13)である樹状細胞(
※14)のがん局所への集積やがん組織内への浸潤を促進する働きがあります。また、IL-7は集積したCAR-T細胞やT細胞の活性化や増殖を誘導すると同時に、その寿命を長くすることが知られております。この際、PRIME CAR-T細胞から産生されるIL-7とCCL19は他のPRIME CAR-T細胞のみならず、体内のT細胞や樹状細胞も固形がんの組織内に浸潤させる機能を有しております。 図3. PRIME CAR-T細胞療法によるがん治療PRIME CAR-T細胞では通常のCAR遺伝子に加えて、IL-7とCCL19が搭載されており、免疫細胞を固形がんの内部に呼び寄せ、さらに増殖させて寿命を延ばすことで固形がんに対して治療効果を誘導します。 集積した樹状細胞は、PRIME CAR-T細胞によって破壊されたがん細胞から様々ながん抗原を取り込み、体内のT細胞にがん抗原を提示してT細胞の活性化を誘導します(Cancer Immunol Immunother. 2026 Feb 7;75
(3):68)。このような現象をエピトープスプレッディング(エピトープ拡散)(
※15)と呼び、一種類ではなく様々ながん抗原を出す固形がんに対して免疫療法の効果を誘導するために極めて重要なステップと考えられております。また、IL-7はメモリーT細胞(
※16)の生存を維持する働きがあることから、PRIME CAR-T細胞療法では通常のCAR-T細胞療法と比べて長期間、治療効果が持続することが期待されます。このように、当社の技術は免疫細胞の集積や浸潤を増強し、増殖を誘導することからPRIME(Proliferation-inducing and migration-enhancing)技術と称しております(図4)。 図4. PRIME CAR-T細胞による固形がんへのアプローチPRIME CAR-T細胞ががん細胞を攻撃することにより、CARの標的とは異なる様々ながん抗原が放出され、CCL19とIL-7に反応して固形がんの内部に呼び寄せられて増殖した免疫細胞は、これらの様々ながん抗原を認識してがん細胞を攻撃することで、CAR-Tの標的を持たない固形がんに対しても治療効果を発揮できます。 (3)PRIME CAR-T細胞療法の非臨床研究データ 玉田らのグループが発表した研究では、PRIME CAR-T細胞を刺激するとPRIME CAR-T細胞からCCL19の分泌が促進され、ナイーブT細胞(
※17)や樹状細胞(
※18)の遊走(
※19)が増加することを、培養容器の空間を2つに仕切り細胞が移動できるトランスウェル®(
※20)という研究手法を用いて確認しました。ナイーブT細胞や樹状細胞と、通常のCAR-T細胞やPRIME CAR-T細胞を分離し、通常のCAR-T細胞やPRIME CAR-T細胞を抗CD3抗体(
※21)やPRIME CAR-T細胞の標的抗原で刺激したところ、PRIME CAR-T細胞の場合には、通常のCAR-T細胞と比べて、遊走してくるナイーブT細胞や樹状細胞の数が多いことが示されました(図5)。 図5. CCL19の効果を確認する細胞遊走試験CCL19を産生するPRIME CAR-T細胞は、ナイーブT細胞や樹状細胞の集積機能が通常のCAR-T細胞よりも増強していることが確認できました。P値は統計学的な有意性を示し、P値が低いほど有意性が高く、0.05未満を有意差ありとしています。 また、IL-7を産生するPRIME CAR-T細胞は、通常のCAR-T細胞と比較して、細胞分裂回数、生細胞数、生存率が高い傾向にあることが示されました。細胞の分裂をモニターするために用いられる色素であるCyoTell™ BlueでPRIME CAR-T細胞もしくは通常のCAR-T細胞を染色し、標的抗原にて刺激したところ、1週間の経過で、PRIME CAR-T細胞は通常のCAR-T細胞と比較して、細胞分裂が多いだけでなく、生存率が高いことがわかりました。(図6)。 図6. IL-7の効果を確認する細胞分裂試験及び生細胞数の確認試験IL-7を産生するPRIME CAR-T細胞は細胞分裂や生細胞数、生存率が通常のCAR-T細胞よりも増強していることが確認できました。 現在当社が開発しているPRIME CAR-T細胞パイプラインは、サイトカインとケモカインの組み合わせとしてIL-7とCCL19を利用しております。この組み合わせは決して無作為に選択されたものではありません。ヒトの正常なリンパ組織(
※22)には多くのT細胞が集積したT細胞領域と呼ばれる部分があり、その部分の形成にはIL-7とCCL19が重要な働きをしていることが知られております。当社の開発しているPRIME技術は生体内で認められるIL-7とCCL19の生理学的機能を応用して固形がんの組織内にT細胞を集積させる、言い換えれば、生物の進化の過程でT細胞領域形成のために選択されたIL-7とCCL19という生理的な組み合わせを、遺伝子改変という科学技術を用いてCAR-T細胞に搭載し、がん治療のために応用したユニークな技術です。これは、単にCAR-T細胞の活性化や増殖を誘導するためのサイトカインを搭載した他のCAR-T細胞技術とは大きくコンセプトが異なります。 マウス実験モデルにおいて、CARターゲットのCD20(
※23)を発現している肥満細胞腫(
※24)であるP815-CD20(
※25)を皮下接種して固形がんを形成させた後、無治療群、通常のCAR-T細胞療法群、IL-7のみを産生する細胞を用いたCAR-T細胞療法群、CCL19のみを産生する細胞を用いたCAR-T細胞療法群、PRIME CAR-T細胞療法群の5つの治療群にて、マウスの生存を観察しました。その結果、最初の4つの処理群ではマウスの長期生存は観察されなかった一方で、PRIME CAR-T細胞処理群における全てのマウスが観察期間の最後まで生存することが確認されました(図7)。 図7. マウス実験モデルでのPRIME CAR-T細胞の固形がん治療効果IL-7とCCL19の両方を産生するPRIME CAR-T細胞は通常のCAR-T細胞に比べて優れたがん治療効果を発揮する一方、IL-7のみ、又はCCL19のみを産生するCAR-T細胞ではがん治療効果の増強は認められませんでした。 さらに、PRIME CAR-T細胞療法がどのようなメカニズムで固形がんに対する優れた治療効果を発揮しているのかを調べるために、マウスに投与したCAR-T細胞の体内動態を観察できるシステムを利用して検討したところ、PRIME CAR-T細胞は固形がんの部分に効率的に集まっていることがわかりました。通常のCAR-T細胞ではこのような現象は認められませんでした。また、PRIME CAR-T細胞はがんの部分にのみ集まっており、それ以外の正常の臓器には集まっていないことも判明し、PRIME CAR-T細胞療法の安全性を示唆するデータも得られております。PRIME CAR-T細胞で治療したマウスのがん組織を顕微鏡レベルで調べてみたところ、非常に多くの免疫細胞が集まっていることが証明されました。さらに、集まっている細胞はPRIME CAR-T細胞のみならず、マウスの体内にもともとあった免疫細胞も含まれていることがわかりました。このような現象は通常のCAR-T細胞療法では認められませんでした(図8)。 図8. PRIME CAR-T細胞の固形がんへの集積PRIME CAR-T細胞は固形がんの部分にのみ選択的に集まっていました。がん組織内部においては、PRIME CAR-T細胞のみならず、もともと体内にあったT細胞も集まっていました。(CD20をターゲットにしたモデルによるデータ) PRIME CAR-T細胞の優れた治療効果は、ヒトT細胞から誘導したPRIME CAR-T細胞を用いた実験でも示されております。ヒトの肺がん細胞株を皮下接種した免疫不全マウス(
※26)にヒトT細胞から作製したPRIME CAR-T細胞を投与したところ、がん細胞の増殖は顕著に抑えられることが判明しました(図9)。このような効果はCARを遺伝子導入していないヒトT細胞や通常のCARを遺伝子導入したヒトT細胞では認められませんでした。このように、IL-7とCCL19の組み合わせにより固形がんに対して強力な治療効果を発揮するPRIME CAR-T技術はヒトT細胞の場合でも優れた治療効果が認められました。 図9. ヒトT細胞から作製したPRIME CAR-T細胞によるがん治療効果ヒト肺がん細胞を接種した免疫不全マウスに、ヒトT細胞から作製したPRIME CAR-T細胞を投与したところ、腫瘍増殖が顕著に抑制されることが判明しました。腫瘍接種後46日目のマウスの写真(右)において、PRIME CAR-T細胞治療では腫瘍が消失していることが認められました。(GM2をターゲットにしたモデルによるデータ) (4)PRIME CAR-T細胞療法の臨床試験データ 武田薬品は、第39回米国がん免疫学会総会(Society for Immunotherapy of Cancers : SITC) において、NIB102 (TAK-102)の第Ⅰ相臨床試験に関する定量的臨床薬理解析およびメカニズムモデルについて発表しました。NIB102 (TAK-102)による治療を受けた11人の患者において、用量制限毒性(DLT)(
※27)、免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)(
※28)ともに認められませんでした。認められたすべてのサイトカイン放出症候群(
※29)については大部分がグレード1で管理可能であり、投与用量3(5×108 CAR-T cells/人)までは、NIB102 (TAK-102)の安全性プロファイルが許容可能であることが示唆されました。また、最良の反応として、治験担当医師の評価により5人の患者でSD(病状の安定)(
※30)を達成しました。DL2-02 患者では、関連する疾患バイオマーカー(
※31)であるAFP(Alpha Fetoprotein)(
※32)レベルの約50%減少が認められました(図10)。 図10. NIB102 (TAK-102)の第Ⅰ相臨床試験に関する定量的臨床薬理解析結果NIB102 (TAK-102)は用量漸増法により1×107から5×108 cells/bodyのCAR-T細胞が投与されましたが、CAR-T細胞の増加に伴い、患者の全腫瘍ボリュームが抑えられ、投与用量3(5×108 CAR-T cells/人)まではNIB102 (TAK-102)の安全性プロファイルが許容可能であることが示唆されました。また、一部の症例ではCAR-T細胞の投与に伴い、がんの疾患マーカーであるAFPの一時的な低下が認められました。 (5)PRIME技術の拡張性と応用性 PRIME技術の根幹は、免疫細胞の集積や浸潤、増殖などを誘導するサイトカインやケモカインをCAR-T細胞に産生させることで、CAR-T細胞自体のがん攻撃能力を高めるのみならず、患者自身の免疫細胞を活性化し、固形がんに対する多様な攻撃を介して長期の治療効果を誘導することです。従って、PRIME技術の適応はCARの認識する標的分子(
※33)の種類に依存しません。つまり、標的分子の数に応じてPRIME技術が拡張する可能性がある、ということです。 (PRIME技術と免疫チェックポイント阻害薬との併用効果)当社は、免疫チェックポイント阻害薬とPRIME CAR-T細胞の併用についても検討しています。山口大学との共同研究で行ったマウス実験では、マウスにがん細胞を皮下接種して固形がんを形成させた後、PRIME CAR-T細胞とPD-1シグナル(
※34)を遮断するPD-1抗体(
※35)の両方を投与したところ、PRIME CAR-TとPD-1抗体との組み合せにおいて、それぞれの単独や、通常のCAR-T細胞とPD-1抗体との組み合せに比較して、より強力な腫瘍治療効果が認められました(図11)。 図11. PRIME CAR-T細胞と免疫チェックポイント阻害薬との併用効果CAR-T細胞の投与量を少なくし、PRIME CAR-T単独では治療効果が出にくい条件におけるマウスモデルにおいて、PRIME CAR-T細胞とPD-1抗体との組み合せは固形がんに対して優れた治療効果が認められました。 (PRIME技術のTCR-T細胞療法への応用)PRIME技術の適応はCAR-T細胞療法に限定されず、同様の遺伝子改変T細胞療法であるTCR-T細胞療法(
※36)にも応用が可能であり、当社においては、既に「共同パイプライン」における契約実績もあります。山口大学との共同研究で得られたデータでは、PRIME TCR-T細胞が、通常のTCR-T細胞と比較して優れた治療効果を示し、マウスを用いた動物モデルで通常のTCR-T細胞よりも腫瘍の増殖を抑制することが認められました(図12)。図12. PRIME TCR-T細胞によるがん治療効果腫瘍細胞を皮下接種したマウスモデルにおいて、PRIME TCR-T細胞の投与は通常のTCR-T細胞の投与よりも強力な治療効果が認められました。 (PRIME技術の腫瘍溶解性ウイルスへの応用) さらに、当社のPRIME技術は上述の細胞療法のみならず、腫瘍溶解性ウイルス(
※37)などの遺伝子治療を増強するためにも有用であることが期待されます。サイトカインとケモカインの組み合わせを産生する腫瘍溶解性ウイルスが腫瘍を溶解してエピトープスプレッディングを引き起こし、患者自身のT細胞や樹状細胞が集積してPRIME技術特有の効果を発揮することが期待されます(関連特許出願済み)。 (PRIME技術の高い拡張性)PRIME技術は、NK細胞(
※ 38)やγδ型T細胞(
※39)を利用したがん免疫細胞療法、TIL療法(
※40)、iPS細胞(
※41)を利用したがん免疫療法などへの応用も期待されます。また、現時点における当社の開発パイプラインはいずれも患者自身の免疫細胞から製造する自家(
※42)のPRIME CAR-T細胞ですが、健常人の免疫細胞から製造する他家(
※43)のCAR-T細胞についてもPRIME技術の応用が可能です。なお、自家についても、製造期間を大幅に短縮し、短期間での細胞作製・患者への投与を実現し、さらに殺傷能力の増強および製造コスト低減を目指す短縮製造法や、製造の自動化を目指した研究開発を進めております。さらに、従来は体外で作製していたCAR-T細胞ですがCAR発現遺伝子などを封入したナノ粒子を用いて生体内のT細胞へ送達することで、生体内においてCAR-T細胞を作成するin vivo CAR-Tの研究も進めております。以上のように、PRIME技術はがん免疫応答を利用する多様な細胞医薬品や遺伝子治療を含めた幅広い再生医療の分野に応用できる可能性を有しており、当社はPRIME技術の高い拡張性を活かした事業展開を目指しております(図13)。 図13. PRIME技術の拡張性PRIME技術は様々ながん免疫細胞療法や腫瘍溶解性ウイルス療法、抗PD-1抗体との併用など、様々なモダリティに展開することが可能なプラットフォーム技術であり、他社技術との協働により更に多くのアプローチの開発が可能です。 (他家CAR-Tの開発(Allogeneic PRIME CAR-T))当社は、2020年よりゲノム編集技術(
※44)の1つであるCRISPR-CAS3(
※45)技術を有するC4U株式会社と共同研究を実施しました。また、2023年2月には、多能性幹細胞から免疫細胞を作製する技術を有するリバーセル株式会社と共同研究及び事業化に関する提携を行い、それらの技術を用いた他家技術の研究開発を進めております。他家によるCAR-T細胞療法が可能になれば、健常な細胞提供者から採取したT細胞を用いて大量に製造したCAR-T製品を保管しておくことで、量産化によるコスト削減効果も期待されます。一般的に他家CAR-T細胞療法では骨髄移植や臓器移植と同様に拒絶反応が起こり得ることから、投与する他家CAR-T細胞についてはあらかじめゲノム編集などにより拒絶反応を抑える工夫が検討されます。我々はこれまでに、TCR(T細胞受容体)遺伝子とbeta-2 microglobulin遺伝子の発現をCRISPR-CAS3技術にて阻害することで拒絶反応を抑えた他家CAR-T細胞(ヒト)の作製に成功しています(bioRxiv, https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2025.08.06.668737v1)。さらに、当社のPRIME技術はがん患者自身の免疫機能を高める効果があるため、通常の他家CAR-T細胞よりも優れた効果が期待されますが、これまでに、他家CAR-T細胞においてPRIME技術の搭載によりがん治療効果が増強することをマウスモデルにて実証しております(Cancer Immunol Immunother. 2026 Feb 7;75
(3):68)。 (次世代製法の開発) 自家については、製造期間を大幅に短縮し、短期間での細胞作製及び患者への投与を行う短縮製造法や、製造工程を自動化する研究開発を実施しています。当社が開発を進める短縮製法(Swift技術)は、従来の10日~2週間の製造期間に対し3~4日間の短期間でCAR-T細胞を製造することが可能です。これにより患者への投与を迅速に行うことができ、また製造コストの低減が期待されます。さらに殺傷能力が増強することも確認されております(図14)。短縮製法により作成されたSwift PRIME CAR-T細胞は、幹細胞メモリー型(SCM:stem cell memory)のT細胞を多く含み、従来のPRIME CAR-Tの1/30以下の細胞数にて同等あるいはそれ以上の腫瘍治療効果を発揮することがマウスモデルにおいて確認されております。 図14. Swift PRIME CAR-T当社は、従来のCAR-T製造に比べ、短期間でのPRIME CAR-T製造と機能向上を実現するSwift PRIME CAR-Tの開発に成功しています。 また当社は、PRIME CAR-T細胞療法を多くのがん患者に提供するために、澁谷工業株式会社(以下、澁谷工業)と遺伝子改変免疫細胞の自動製造システムに関する共同開発を進めております。当社が培ってきたCAR-T細胞培養のノウハウを応用し、高品質のCAR-T細胞を無菌状態にて効率的に自動培養できるシステムを開発しております。これにより、複雑なCAR-T細胞の製造過程における人的ミスを回避し、大量のCAR-T細胞を連続製造することが可能となり、コストの削減や品質の安定化、迅速な治療薬提供に貢献できると考えております。 (In vivo CAR-T誘導によるがん治療) 自家CAR-T細胞および他家CAR-T細胞は、いずれも体外で製造したCAR-T細胞をがん患者へ投与しますが、in vivo CAR-TはCAR発現遺伝子を封入したナノ粒子などの担体をがん患者へ投与することで、生体内のT細胞へ送達して発現させ、生体内においてCAR-Tを誘導してがん細胞を攻撃するという治療法です(図15)。これまでに東京大学との共同研究においてマウスの血液腫瘍モデルで有効性を示唆するデータが取得されており、今後のPRIME技術との組み合わせも視野に研究開発を推進しております。 図15. In vivo CAR-T誘導によるがん治療生体内でCAR-T細胞を誘導するin vivo CAR-T療法の研究開発を推進しています。東京大学との共同研究において、マウス血液腫瘍モデルにて有効性を示唆するデータを取得しています。 (6)当社のビジネスモデルについて 当社は、自社研究や大学や研究機関との共同研究、また国内外の企業との共同研究開発を通じて、がん免疫療法に関する技術及びパイプラインの開発を進めております。当該研究開発の結果として生まれた知的財産権は、自社又は共同研究を実施した研究機関との共同で特許を出願しております。それらの知的財産権は、当社の研究開発過程にて医薬品として事業化の可能性を高めた後、国内外の製薬企業に対して特定の標的分子に限定して医薬品の開発、製造、販売の権利等をライセンスします。当社は技術アクセス料、契約一時金、開発の進捗に応じたマイルストン収入、販売額に応じたロイヤリティ、販売経過年数や販売目標の達成に応じたマイルストン収入等を得ることができます。また、このほか、共同研究において研究開発費の負担金の支払いを受けることもあります。 [事業系統図]
①ハイブリッド型ビジネスについて 当社は、CAR-T細胞療法等を主軸にがんの治療法創出の研究・開発を行うがん免疫療法創薬事業の単一セグメントでありますが、開発主導の違いから、「自社創薬」及び「共同パイプライン」の2つの事業モデルを有しております。「自社創薬」においては、当社は、自社が主導して開発を進行しており、また、「共同パイプライン」においては、PRIME技術を他社にライセンスして医薬品開発を進めております。これら事業展開により、共同パイプラインを通じてPRIME技術の市場への展開や周知を加速化して早期の収益確保を図ると同時に、長期的には自社創薬により大型の販売収益を確保することにより、事業経営におけるリスク分散及びサステナブルな事業成長を目指しており、これにより、がん治療市場における競合他社との差別化を図ることができると考えております。 自社創薬共同パイプライン基礎技術基盤当社独自のPRIME技術創薬標的
※自社が選定した標的抗原に対してPRIME技術を利用した医薬品開発を行う契約先が選定した標的抗原に対してPRIME技術を利用した医薬品開発を行う開発主導・開発コスト自社(ライセンス後は契約先)契約先収入形態(ライセンス後)・技術アクセス料・共同研究収入・契約一時金・開発マイルストン収入・販売開始年経過マイルストン収入・販売目標達成マイルストン収入・ロイヤリティ ・技術アクセス料・共同研究収入・契約一時金・開発マイルストン収入・販売開始年経過マイルストン収入・販売目標達成マイルストン収入・ロイヤリティ事業の特徴先行投資が多額になり、投資回収期間が長期になるが、収益規模は大型となりやすい先行投資は極めて少なく、早期の収益確保が可能だが、収益規模は中程度
※創薬標的については、「自社創薬」と「共同パイプライン」で重複しないよう、当社で管理し調整しています。 (a) 「自社創薬」「自社創薬」は、一般的な創薬事業と同様に当社が標的抗原の選定から開発まで手掛ける事業モデルであり、当社が選定した標的抗原に対してPRIME技術を利用したCAR-T等のパイプラインを創製し、当社が研究開発を主導して実施する事業モデルであります。開発パイプラインについて、自社にて薬事承認取得を目指して開発を進め、承認段階又はその中途段階において製薬企業等にライセンスアウトすることにより収益獲得を図っております。当社における研究開発費や人員等の開発コストが大きく、また、複数のパイプラインを同時に展開することが困難でありますが、研究開発の進捗及び開発確度が高まった段階でのライセンスアウトが可能となり、パイプライン当たりの契約総額は比較的大規模となる傾向があります。当社は、自社にて臨床試験を実施し製造販売以降は製薬企業へのライセンスを行うことを基本方針としておりますが(下図自社創薬-モデルC)、ライセンス先となる製薬企業等のニーズや、研究開発状況、想定される開発コスト又は収益規模等の状況に応じてライセンスのタイミングを変更する又は将来的には医薬品の製造販売までを自社にて行う等の選択を戦略的に行う可能性もあります。 (b) 「共同パイプライン」「共同パイプライン」は、PRIME技術を既に標的抗原を有する製薬企業等に対しライセンスする事業モデルであり、契約先が選定し当社と合意した標的抗原に対し、当社のPRIME技術を応用したCAR-T等の遺伝子改変免疫細胞等のパイプラインの研究開発を実施します。早期段階でのPRIME技術のみのライセンスアウトが主体のため、一件当たりの契約総額は自社創薬に比較すると小規模となりますが、当社の開発投資や自社リソース投下は限定的であり、製薬企業のニーズに応じてパイプライン数が積み上がりやすい傾向があります。これにより、ポートフォリオ拡大による競争上の優位性を得ることができ、また、標的抗原の増加によりPRIME技術の対象となり得る患者を拡大することも期待できます。共同パイプラインに関する契約は、標的の選定やPRIME技術を組み合わせるためのCAR-Tなどの創製から開始する場合(下図共同パイプライン-モデルA)や、既にライセンス先が有するパイプラインにPRIME技術を上乗せする場合(下図共同パイプライン-モデルB)があります。なお、自社創薬と共同パイプライン共通して、契約先の希望に応じて、特定の標的抗原決定に先立って技術評価を実施する場合があります(下図共同パイプライン-モデルC)。なお、既に契約を締結している企業以外に、今後の継続的なアライアンス獲得に向け、常時候補企業との協議を実施しております。
②収入形態について 当社事業展開においては、「自社創薬」及び「共同パイプライン」ともに、契約締結又はライセンスアウト時における「契約一時金」、研究開発進展等の予め契約にて定めたマイルストンの達成時に得られる収入である「マイルストン収入」、医薬品上市後の販売に応じて一定率を受領する「ロイヤリティ」等の収益獲得を基本としておりますが、これら経済条件については個別パイプライン毎にライセンス企業と協議の上で決定されます。…
財務は有価証券報告書、株価は市場の公開情報。 数値の正確性は保証しません。 水色のセルは、次の基準を満たすときです。成長率20%以上/総利益率70%以上/販管費率10%以下/営利率20%以上/Rule of 40が40%以上/セールス効率150%以上/PSRがRule of 40×7以下/PGPRがRule of 40×10以下/PERが成長率×100以下/PBRが営利率×10以下/ネットキャッシュが時価総額の50%以上/EV/EBITDAが5倍以下/自己資本比率80%以上/ROE20%以上/ROA10%以上。