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AIR日本株ファクトブック/アストロスケールホールディングス/事業
186A
人工衛星運用者やロケット事業者向けに宇宙空間の非協力物体に対するRPO技術をコアとした軌道上サービスを提供し収益を得ています
有価証券報告書(2026-04期)からの抜粋。
3
(注) 1.本書提出日現在において、Astroscale Singapore Pte. Ltd.は休眠状態にあります。
2.人工衛星やデブリ等に対して軌道上において提供するサービスのことをいいます。
3.「宇宙空間の非協力物体」とは、デブリなど、位置情報を発信せず自由運動(回転など)をして宇宙空間を飛翔している物体を指します。
4.Rendezvous and Proximity Operations(ランデブ・近傍運用)技術の略です。
5.現時点で構想段階にあり、提供が開始されていないサービスも含みます。
6.以下、本「3 事業の内容」においては、個別に明記している場合を除き、1米ドル=155円、1ユーロ=180円、1英ポンド=205円の円換算レートを使用しております。 1 宇宙環境と軌道上サービスの必要性1.1 軌道について人工衛星が通る道筋を「軌道」といい、衛星は、1つの決まった平面の中で地球を周回しています。この平面は「軌道面」と呼ばれ、人工衛星が地球を回る軌道面には、必ず地球の中心が含まれます。地球を回る軌道のうち、高度2,000km以下の軌道を低軌道(low Earth orbit、以下「LEO」)、高度約36,000kmの軌道を静止軌道(geostationary orbit、以下「GEO」)といいます。低軌道は地表に近いため、高精度観測を必要とする観測衛星に多用されます。国際宇宙ステーションも低軌道を飛行しています。静止軌道は、同軌道上の衛星が地球の自転周期と同じ時間(約24時間)で地球を一周し、地上の観測者から相対的に静止しているように見えることから「静止軌道」と呼ばれております。静止軌道上の衛星からは地球の片半球全体を常に俯瞰できるため、気象衛星や通信・放送衛星に適します。当社グループは、低軌道及び静止軌道の双方において軌道上サービスを提供すべく、研究開発を行っております。 図2 人工衛星が通る道筋である「軌道」 1.2 衛星データ利用の活発化グローバル経済は人工衛星から受け取るデータに大きく依存しています。自動車、船舶及び飛行機の交通管制、天気予報、衛星放送並びに災害監視のほか、農業や漁業にも衛星データがリアルタイムに活用されています。その他にも、物流、金融市場、インターネット、安全保障等の地球上の社会基盤インフラサービスが、宇宙技術と密接不可分に様々な形で提供されています。国連が定めた持続可能な開発目標(SDGs)の実現にも、衛星は大きく貢献しています。SDGsは17の目標とそれに因んだ169のターゲットによって構成されていますが、国連宇宙部等の共同研究によれば、そのうち65個のターゲットは地球観測や位置情報といった衛星技術を直接的に必要としており、通信衛星を含めればさらに衛星技術を必要とするターゲットの数は増えると考えられています(注1)。例えば、1番目の目標である「貧困をなくそう」については、インターネット網が行き届かない貧困地域において、通信衛星が宇宙からデータ通信サービスを提供することで、モバイルバンキングシステムを実現しています。また、13番目の目標である「気候変動に具体的な対策を」については、大気、海洋及び地表における気候データの5割以上は衛星の観測データによるものであり、気候変動予測などに役立てられています。これらは一例であり、様々なSDGs目標の実現のために、衛星データの多様な活用がなされています。 図3 地球上の社会基盤インフラサービスは宇宙技術に大きく依存
(注) 1.国連宇宙部: https://sdgs.un.org/un-system-sdg-implementation/united-nations-office-outer-space-affairs-unoosa-24523 1.3 宇宙環境の悪化(これまで)宇宙空間においては、運用終了や故障により役目を終えた人工衛星、人工衛星の打上げに使われたロケットの上段、それらの爆発や衝突で生じた破片などが、デブリとなり地球の周囲を秒速約7〜8kmという非常に速い速度で飛翔しています。その数は年々増加し続けており、大きさが10cm以上の観測可能なデブリは約54,000個となり、大きさが数cm級のものも含めると約120万個にのぼります(2026年6月現在、注1)。また、大型のデブリは質量数トン、大きさ数十m級のサイズになります。稼働中の人工衛星の数も増加しており、約15,800機となっています(2026年6月現在、注1)。これらの人工衛星も、運用終了や故障等により将来のデブリになる可能性があります。
(注) 1.欧州宇宙機関(European Space Agency、以下「ESA」)""Space debris by the numbers (Information last updated on 25 June 2026)"" 図4 デブリによる宇宙環境の悪化(イメージ図)(注2)
(注) 2.左:アメリカ航空宇宙局(the National Aeronautics and Space Administration(以下「NASA」)ゴダード宇宙飛行センター、右:ESAの公表資料をもとに当社作成 図5 地球周回軌道上における物体数の推移(注3)
(注) 3.NASA Orbital Debris Program Office(https://orbitaldebris.jsc.nasa.gov/quarterly-news/pdfs/odqnv29i1.pdf) 宇宙空間の物体(衛星やデブリ)の数は、図5が示すように、増加傾向にあります。特に、2020年以降は、コンステレーション衛星を含む人工衛星の打上げなどにより増加のペースが速まっています。宇宙空間における物体の数は既に危機的な水準にまで達しており、低軌道における衛星の他物体との1km以内のニアミスの数は、2020年以降、加速度的に増加しています(図6)。実際に物体同士の衝突も起きており、小さな破片が多数発生しております。これらの破片は、大きさわずか数mmであっても、衛星やロケットなどの宇宙機に衝突すれば壊滅的な被害を生じさせることが想定されます。宇宙空間の物体の連鎖反応的な衝突はいつ起きてもおかしくない状態であり、速やかに対策を講じなければ、やがて宇宙空間は利用できなくなり、交通管制、通信、放送、測位といった宇宙技術の恩恵を受けられなくなると考えます。したがって、デブリの増加防止及び(衝突や爆発をする前の)既存デブリの除去が、宇宙の持続利用のために急務となっています。 図6 低軌道(LEO)における人工衛星の他物体との1km以内のニアミス数(月次)(注4)
(注) 4.The Center for Space Standards & Innovation at COMSPOC, with the Space Data Association, “Evaluation of LEO Conjunction Rates Using Historical Flight Safety Systems and Analytical Algorithms” (2021) をもとに当社作成 1.4 宇宙環境の悪化(これから)宇宙利用は拡大基調にあります。数十機から数千機という多数の小型衛星を一体的に運用する「衛星コンステレーション」という新たな運用形態により、観測衛星による観測頻度を大幅に向上させたり、静止軌道以外での衛星通信を可能にしたりする新たなサービスが生まれています。加えて、ビッグデータ処理や、AI解析、IoTなどの宇宙分野以外における変革により、新たな宇宙利用サービスの創造が起きています。さらに、従来は国が主体となって宇宙開発を行うことが一般的でしたが、宇宙の事業主体が官から民へ移行しつつあります。米国を始めとする先進国では、商業ベースで、衛星の開発・運用や打上げサービス等を提供できるベンチャー企業等を政策的に育成・強化し、国はこれらの事業者からサービスを調達する方式が徐々に採用され始めています。このような、新たなサービスの創造並びに衛星の製造、打上げ及び運用に伴う宇宙利用コストの大幅な低下が、宇宙利用を加速させています。その結果、2030年までに、宇宙空間における宇宙機及びデブリがともに大幅に増加すると予見されており、宇宙環境は今にも増して加速度的に悪化すると考えられています。 1.5 軌道上サービス自動車・船舶・航空業界等には販売後のアフターサービスがあり、点検・保守、修理・延命、移動・廃棄といったバリューチェーンを用意することで、利用環境を持続可能にするとともに、利用者のコストを最適化しています。宇宙環境が持続利用不可能な状態に向かっているのは、そのようなバリューチェーンが存在せず、いわゆる使い捨て文化のまま今日に至ったためです。役目を終えたり故障したりした衛星やロケット上段は、そのまま軌道上に滞在し続けデブリと化しています。すなわち、これまでの宇宙業界は、Reduce(削減)、Reuse(再使用)、Refuel(燃料補給)、Repair(修理)、Relocation(移動)、Remove(除去)、Recycle(再利用)などができない状態であり、それを可能にするのが当社グループの軌道上サービスです。 図7 軌道上サービスは宇宙業界のバリューチェーンを拡大(イメージ図。現時点で構想段階にあり、提供が開始されていないサービスも含む) 実際に、宇宙環境の急速な悪化を受け、自動車・船舶・航空業界に交通管理の仕組みがあるように、宇宙機の円滑かつ安全な運行のために、いわゆる「宇宙交通管理(Space Traffic Management、以下「STM」)」が必要との議論が、2018年頃から米国や欧州等の宇宙先進国や国際連合等で行われています。例えば、日本における自動車の交通管理に関しては、道路交通法やその他の交通管制に係る法律があり、また、公益財団法人日本道路交通情報センターのように、国内の交通状態を一元的に把握する仕組みがあります。さらに、故障車や事故車によって交通を妨げず、円滑で適切な運用を実施できるよう、一般社団法人日本自動車連盟(JAF)等が提供するロードサービスが存在します。このような仕組みを宇宙空間にも整備しようとするSTMの議論が世界で活発になっており、現時点で、そのルールは、各国の法規制や国際的ガイドライン、行動規範、ベストプラクティス事例、業界指針などの集合体になると考えられています。STMのうち、宇宙空間状況を把握することをSSA(Space Situational Awareness)、軌道上サービスをOOS(On-Orbit Servicing)と呼び、安全な宇宙航行のための必要な要素と考えられています。2024年9月には、国連本部において全会一致で「未来のための協定」が採択され、国連宇宙空間平和利用委員会(UN COPUOS)を通じて、スペースデブリ、宇宙交通管理・調整、宇宙資源に関する新たな枠組みの構築について議論することが合意されました。 1.6 RPO技術当社グループの軌道上サービスにとって特に重要な技術は「安全に接近・捕獲し、何らかのサービスを提供する技術」であり、RPO技術と呼ばれます。RPO技術は、複数のプロセスとそれに必要な技術要素の組み合わせになります。例えば、デブリ除去には、(1)対象物体(デブリなど)の軌道要素の推定及び打上時刻の決定、(2)対象物体の絶対位置を推定して接近する遠方域接近(絶対航法)、(3)対象物体の姿を捉えて様々なセンサを用いながら接近する近接接近(相対航法)、(4)対象物体の運動推定、回転を合わせることによる相対運動量の除去、(5)捕獲とその後の合体重心の推定や姿勢の安定化、(6)軌道上サービスの提供、といった各ステップで高度な技術が必要になります。また、必要に応じて制御落下(対象物体が大気圏に突入する際に燃え残った場合の地上への落下災害リスクを低減するため、安全な海域に落下させること)といった技術の開発も求められます。過酷な宇宙環境を想定した試験や、故障が起きた場合の対応、安全性を担保するための高性能なシミュレーション、複雑な衛星運用のための管制センターや運用手順書など、各ステップで必要となる技術の開発やその運用を支える基盤技術やノウハウも、RPO技術を支える重要な構成要素になります。 図8 コア技術であるRPO技術(上図
⑥には、現時点で構想段階にあり、提供が開始されていないサービスも含む) 2 事業の内容2.1 グローバル体制図宇宙環境問題の解決には全世界的に取り組む必要があるため、当社グループは、日本に本社を置き積極的なグローバル展開を実施しております。日本のほか、英国、米国及びフランスに現地拠点を有し、世界の政府宇宙予算トップ10か国に含まれる同盟国・同志国(注1)全てにアクセス可能な体制としております。また、当社グループ従業員の約7割を占めるエンジニアは各国に所在しており、現地で研究開発を行っている他、現地の経営陣や営業部隊、生産設備等も有しており、現地企業として直接現地政府から受注可能な体制を整備しております。 図9 当社グループのグローバル体制(注2)
(注) 1.Novaspace “Government Space Programs 25th Edition”2.本書提出日現在において、図に記載の他、イスラエル及びシンガポールに連結子会社を有しております。なお、シンガポールの連結子会社であるAstroscale Singapore Pte. Ltd.は休眠状態にあります。 2.2 軌道上サービス市場軌道上サービスは、宇宙業界でも新しい分野ですが、市場規模拡大が期待されており、2023年から2033年の累計売上収益は182億ドル(約2.8兆円)(注1)と推計されています。これまでは政府機関(非防衛)が需要を牽引しており、当社グループとしては、政府機関からの需要は今後も引き続き拡大していくと見込んでいます。また、2024年4月期中に、地政学的な変化と防衛における宇宙領域の重要性認識の高まりにより、防衛機関からの需要が顕在化し始めました。防衛機関からの需要はこの市場の当面の成長ドライバーになると期待されています。現在、特に静止軌道上では敵国衛星が安全保障上重要な衛星に対して異常に接近するといった脅威が観測されており、重要な衛星を防護する衛星に対するニーズが高まっています。防衛省が2025年7月に公表した宇宙領域防衛指針においては、重要宇宙アセットを脅威から守るために、
①SDA(Space Domain Awareness、宇宙領域把握)衛星、
②自律的かつ機動的な運用が可能な衛星、
③防護能力を持つ衛星の3種類を明示しています。当社は2025年2月に、防衛省より
②の衛星に相当する「機動対応宇宙システム実証機」の試作に係る契約を獲得しており、この分野での継続受注獲得を目指しています。また、日本国外でも同様の防護衛星に対するニーズが顕在化しています。この他、米国宇宙軍では次世代のSDA衛星には燃料補給能力を必須化する計画を明示しており、当社米国法人が米国宇宙軍から受注したAPS-Rミッションを通じて実施する燃料補給実証を経て、燃料補給ビジネスに対するニーズの増加も期待しています。加えて、政府機関及び防衛機関からの需要の増加とそれに伴う技術進展並びに当社の寿命延長サービスの実証完了やデブリの低減に関する法規制の議論の前進(注2)などによって民間事業者からの需要の出現がさらなる市場拡大に寄与していくものと考えております。軌道上サービスを受けられるよう、事前にドッキング・インターフェース(例:ドッキングプレート(注3))を搭載した衛星の打上げも進められています。
(注) 1.Northern Sky Research In-Orbit Services Report (NSR IOSM) 3rd, 7th edition2.詳細については、下記「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
(3) 経営環境及び対処すべき課題」の「法規制作りへの働きかけ」をご参照ください。
3.あらかじめ識別マーカを備えた磁性体のプレート。衛星に当該プレートを搭載することで、捕獲機(サービサー)による捕獲対象衛星(クライアント)の識別、運動推定、接近、捕獲、軌道離脱を比較的容易にし、除去費用を抑えることが可能になります。 2.3 5つの軌道上サービス当社グループでは、以下5つの軌道上サービスの開発を行いながら、政府機関、防衛機関及び民間事業者の需要獲得に取り組んでいます。
① 故障機や物体の観測・点検サービス(In-situ Space Situational Awareness、以下「ISSA」)
② 寿命延長・燃料補給サービス(Life Extension Service、以下「LEX」)
③ 衛星の修理・改修サービス
④ 既存デブリの除去サービス(Active Debris Removal、以下「ADR」)
⑤ 衛星運用終了時のデブリ化防止のための除去サービス(End-of-Life Service、以下「EOL」) 図10 5つの軌道上サービスのイメージ図 各サービスの想定顧客と主な技術の比較は以下の通りです。 図11 各軌道上サービスの想定顧客と主な技術の違い
① ISSA(故障機や物体の観測・点検サービス)概要:故障衛星やデブリといった非協力物体に対し、安全に至近距離に接近することは極めて難易度が高く、その理由は、非協力物体からは位置情報が発信されず、接近して観測・点検を行うことが困難であることにあります。この点、当社グループの故障機や物体の観測・点検サービス(ISSA)においては、観測用衛星を打ち上げ、非協力的物体に安全に近距離まで接近し、可視光カメラ及びその他のセンサ類を用いて、対象物体のデータを取得することで、故障の原因解析への活用や、相手物体の把握(例えば、大型デブリを除去する前に位置や回転状況、形状、表面状態などを確認すること)を可能にするサービスを提供します。ISSAにおける相手物体の把握は、ADRに必要なデータを事前取得する役割も果たします。また、防衛用途では、特に静止軌道上での宇宙領域把握(Space Domain Awareness、以下「SDA」)をはじめとする宇宙監視、情報収集による宇宙作戦能力の向上にも貢献します。主な顧客:本サービスが想定する対象顧客は主に政府機関や防衛機関となります。提供価値:概要に記した通りです。技術:当社グループは、CRD2のフェーズIとして、2024年2月18日に打ち上げたサービサー衛星ADRAS-Jを用いて、非協力物体への近接、観測のための技術の宇宙実証を行い、フェーズIを完了しました。本ミッションの実証成果につきましては、下記「3.4 ADRAS-J(アドラス・ジェイ)」にて詳述しております。事業上の取り組み:文部科学省の中小企業イノベーション創出推進基金(SBIR基金)における宇宙分野のテーマ「スペースデブリ低減に必要な技術開発・実証」において、当社グループが、2023年9月、「軌道上の衛星等除去技術・システムの開発・実証」という研究開発課題に採択されました。当社グループは、2023年10月から最長2028年3月までの期間、文部科学省からの補助を受け、大型の衛星を対象デブリとした近傍での撮像・診断ミッションにおいて、技術開発及びミッション遂行を担います。また、2025年1月に、英国政府プログラムの一環としてBAE Systems plc社から観測ミッションに関する契約(プロジェクト名:Orpheus(オルフェウス))を獲得しています。さらに、2025年2月に、防衛省より機動対応宇宙システム実証機の試作に係る契約を獲得しており、2028年3月末までに納品予定です。実際の打上げ、運用、実証に関しては別契約を予定しています。
② LEX(寿命延長・燃料補給サービス)概要:当社グループの寿命延長サービス(LEX)は、燃料が枯渇した衛星や、想定外の燃料消費により予定より早く寿命を迎える衛星、あるいは軌道がずれてしまった衛星に対して、ドッキング(捕獲)を行い、当社グループのサービサー衛星の燃料を用いる、若しくは燃料補給を通じて、衛星の運用期間の延長や別の軌道への遷移などのサービスを提供するものです。主な顧客:想定する対象顧客は、低軌道や静止軌道で衛星を運用する政府機関・防衛機関や民間事業者になります。特に、静止軌道では毎年20機以上の衛星が退役しております。提供価値:静止衛星は、軌道上の特定の場所において、地上に対して相対的に静止し続ける必要がありますが、衛星には外力(月や太陽による引力等の様々な力)が働くため、ステーションキーピングと呼ばれる軌道を維持するための制御を随時行う必要があり、かかる軌道制御のために定常的に燃料を消費します。そのため、静止衛星は、燃料が枯渇すると運用ができなくなります。静止衛星は、軌道制御のほかにも、
①軌道投入に失敗した場合の位置補正、
②フリートマネジメント(静止衛星を別経度に移動させること)、
③墓場軌道への移動(国際ガイドラインにより、運用を終了した静止衛星は高度を300kmほど上げ、墓場軌道と呼ばれる場所に退避することが勧告されています)などのために、燃料を消費します。静止衛星の運用者は、静止衛星の燃料枯渇の数年前から後継衛星の開発を開始しますが、静止衛星の大型化に伴い、打上げ費用を含めた数百億円の投資が必要となります。LEXサービスは、そうした衛星運用者の、既存の衛星を極力使用し続けたいというニーズに応えるものです。技術:当社グループは、イスラエルに連結子会社であるAstroscale Israel Ltd.を設立し、2020年6月に、同国で寿命延長サービスを開発する、Effective Space Solutions社の知的財産権を取得し、同社のR&D拠点の従業員を承継しました。この事業譲受により、低軌道(LEO)から静止軌道(GEO)までを対象とした軌道上サービスに取り組むことが可能になりました。LEXサービスに用いるLEXI(レクシー)という名称のサービサーは、将来需要を鑑み、本書提出日現在、当社グループの自己資金で開発しております。LEXIの捕獲機構は、ペイロード・アダプター・リング(PAR)という、宇宙業界で幅広く採用されている、打上げ時のロケットと衛星のインターフェースとなる円形状の構造物を把持する設計で、軽量であり、様々なサイズのPARを把持できる特徴を持っています。事業上の取り組み:当社の米国子会社であるAstroscale U.S. Inc.は、寿命延長サービスに興味を示している静止衛星を運用する民間事業者と協議を継続しております。当社では、2027年4月期から2031年4月期にかけて毎年約20~30基の静止衛星が退役し、寿命延長サービスに関する需要が生じると見込んでおります。その上で、当社は、LEXサービスのうち軌道修正に関して、毎年1~2社程度の各国の顧客に軌道修正サービスを提供することを目指しております。LEXサービスのうち燃料補給に関しては、Astroscale U.S. Inc.が、2022年1月に米国Orbit Fab社との間で、静止軌道上の衛星への燃料補給に関する商業契約を締結したほか、2023年9月に米国宇宙軍より静止軌道における燃料補給衛星の開発を受注しております。その後、3回にわたり契約金額が増額され、燃料補給衛星のプロトタイプの開発から、静止軌道上での実証運用に契約範囲が拡大しています。国内では、内閣府主導のもと創設された「経済安全保障重要技術育成プログラム(以下「K Program」)において、国立研究開発法人科学技術振興機構(以下「JST」)が公募した「協力衛星を対象とした宇宙空間における燃料補給技術の確立」の研究開発の募集が行われ、2025年1月に、日本子会社である株式会社アストロスケールが委託先として採択されました。2025年9月には初年度の契約を締結し、衛星名をREFLEX-Jとしてプロジェクトが開始いたしました。その後初年度の契約額増額、2年目の契約締結を行っております。なお、燃料補給サービスに必要な衛星給油口接続システムについては、本田技術研究所と共同で開発し、本ミッションにおいて使用される予定です。
③ 衛星の修理・改修サービス概要:衛星の修理・改修サービスは運用中の既存衛星に接近した上で安全に接続し、ロボティクス等の技術を用いて劣化・旧式化したシステムの交換等による衛星の修理や機能アップグレードを通じた寿命延長を計るサービスです。主な顧客:本サービスが想定する対象顧客は政府機関、防衛機関や民間事業者です。提供価値:軌道上での修理・改修を可能とすることにより、顧客は代替機を打ち上げることと比較して低廉な投資額で損傷した衛星を修理し、運用を継続できる他、運用中に機能アップグレードを施すことで獲得できる収益を増加させること等が期待できます。また、修理を前提とした衛星の設計を採用することにより、必要となる冗長性を減らし、当初必要となる設備投資額を緩和させる効果も期待できます。技術:修理・改修サービスでは、ADRやEOLサービス同様、対象衛星に接近・ドッキングすることが求められます。その上で、ロボットアーム等の機構を用いて、部品の交換等を実施します。また、軌道上で精密な動きを求められるほど修理に係るコストが高くなることが想定されるため、対象となる衛星を容易に修理可能となるようモジュール化しておくことで、運用期間全体にわたるコストの低減を狙うことが可能となります。事業上の取り組み:当社グループは英国で2025年12月に欧州宇宙機関から軌道上改修・アップグレードサービス(In-Orbit Refurbishment and Upgrading Service)の調査案件を受注いたしました。この調査案件においては、ロボット技術とサービス技術を用いて、軌道上の既存衛星に安全に接続し機能向上を図る方法を検討し、劣化・旧式化したシステムの交換等による衛星の機能アップグレードや寿命延長が、技術的及び商業的に実現可能か評価することを目的としています。また、米国では2026年1月に米国航空宇宙局(以下「NASA」)よりNASAのHabitable Worlds Observatory (以下「HWO」)への軌道上サービス提供の可能性を調査する新規案件に採択されました。本案件は、NASAと初めての直接契約です。HWO は、他の恒星を周回する惑星において生命の兆候を探すことを目的に設計された、初めての宇宙望遠鏡です。NASA は今回初めて、将来軌道上サービスを受けることを前提としたミッション設計を検討し、軌道上サービスを受けることで、HWO の運用を世代を超えて長期的に継続することを目指しています。本件では、ASUSの軌道上サービスの技術を取り入れることで、HWOの
①プログラムリスクの低減、
②科学的成果の向上、
③資源利用の最適化、
④観測停止期間の最小化、
⑤メンテナンス及びアップグレード機会の最大化を実現する方法を調査します。
④ ADR(既存デブリの除去サービス)概要:ADRサービスは、捕獲用アームを用いたデブリの除去サービスであり、当社グループのサービサーを打ち上げ、既存デブリを捕獲し、軌道を降下させ、大気圏で燃焼させて除去するサービスです。既存デブリのうち、特に質量数トン級の巨大なデブリは破砕すると宇宙環境に大きな影響を与えるため、早期の除去が必要です。主な顧客:本サービスが想定する対象顧客は政府機関です(過去に排出されたデブリの大半が政府機関によるミッションに由来するものであることに加え、過去に民間事業者により排出されたデブリについては、その排出の責任を当該民間事業者に遡及的に問うことは困難であるため)。提供価値:既存デブリを早期に除去することで、既存デブリが破砕し、捕捉も捕獲もできない小さなデブリとなることを防ぎます。宇宙環境を保全し、宇宙空間に配置されている衛星群を持続的に利用するためには、既存デブリの除去が必要です。技術:ADRサービスにおいては、当社グループのサービサーが、既存デブリ(重量数トンまで)をクライアントとして、接近し、捕獲用アームで捕獲後、軌道を降下させることで、クライアントを混雑軌道から退避させて破砕による宇宙環境の悪化を防ぎます。EOLサービスと異なり、クライアントがドッキングプレートを搭載していないことから、捕獲に磁石ではなく捕獲用アームを使用するため、運動推定や捕獲の難易度はEOLサービスより高くなります。事業上の取り組み:日本では、宇宙航空研究開発機構(以下「JAXA」)が民間事業者と連携し、世界初の大型デブリ除去等の技術実証(CRD2:商業デブリ除去実証)を開始しました。当社グループは、2020年に同ミッションのフェーズIを受注しました。フェーズIは、サービサーが、非協力物体であり日本を登録国としているロケットの上段へ接近し、その運動や損傷・劣化状況を観測するものです。そのため、フェーズIで実証された技術の内容は、先述のISSAに相当します。当社グループは、CRD2のフェーズIを遂行する当社グループのサービサー衛星であるADRAS-Jを2024年2月18日に打ち上げ、JAXA要求ミッションを完了しました(後述の「3.4 ADRAS-J(アドラス・ジェイ)」参照)。また、フェーズII(ADRAS-J2)においては、当該ロケット上段に接近後、捕獲し軌道降下させる実証実験が計画されております。当社グループは、フェーズIIに係るフロントローディング技術検討を2022年8月に受注し、2023年12月に完了しており、フェーズII本体についても、2024年4月にJAXAから株式会社アストロスケールを選定企業として選定する旨の選定結果通知書を受領し、2024年8月に契約締結いたしました。英国では、英国宇宙庁(United Kingdom Space Agency、以下「UKSA」)のデブリ除去プログラムCOSMICに関し、2021年10月にADRの概念設計(フェーズ0/A)を受注、2022年9月には基礎設計に該当するフェーズBを受注し、2024年4月にはフェーズBを完了しました。さらに、従前当社開示資料にてCOSMICフェーズCと呼称していた後続ミッションの初期段階を切り出したフェーズ2を2024年9月に受注し、2025年5月に完了しました。2025年7月に後続フェーズであるミッション契約の公募が公表され、Astroscale Ltdは入札に参加しています。フランスでは、フランス国立宇宙研究センター(CNES)と、2023年6月に同国由来のデブリのうちいずれを優先的に除去すべきか検討するための共同研究契約を締結しました。今後、日本での実証を経て技術が成熟化し、尚且つ世界の主要国で各国が排出したデブリを除去するためのサービス調達が始まることを想定して、当社グループは、世界主要国の政府機関や宇宙機関を主要顧客としてADRサービスを展開します。
⑤ EOL(衛星運用終了時のデブリ化防止のための除去サービス)概要:EOLサービスは、運用を終了した衛星のデブリ化を防止するための除去サービスです。具体的には、当社グループの捕獲機(サービサー)を打ち上げ、故障機や寿命を迎えた衛星を捕獲し、のちに軌道を降下させ、大気圏で燃焼させて除去するサービスです。ADRと異なり、打上げ前にドッキングプレートを潜在顧客衛星に取り付けておくことで、磁石を用いた捕獲機構で捕獲が可能となります。接近・捕獲の難易度を下げることに加え、1,000kg以下の故障衛星を対象とし、サービサー1機で複数の故障衛星を除去することを想定しており、ADRに比して安価な除去サービスが可能になります。主な顧客:本サービスが想定する対象顧客は衛星コンステレーションの運用事業者です。衛星コンステレーションは、多数の衛星を一つの軌道面に配備し、その上で、複数の軌道面を用いることで、数十機から数千機の衛星を用いて地球全体をカバーする運用を行います。故障機等がデブリとして軌道上にそのまま放置され続けると、デブリと故障機の衝突により生じた微小デブリによる軌道面汚染、自社の他衛星との衝突によるサービス停止、及び衝突回避のための燃料消費による衛星の短命化等の危険性が高まり、かかるリスクによって収益が減少する恐れがあるため、速やかに故障機等を除去するニーズがあります。2020年前後より、数社が大型のコンステレーション衛星の打上げを開始し、現在、世界中で100以上の会社・組織がコンステレーション衛星の設計・開発又はその検討を進めています。 図12 コンステレーション衛星の配置イメージ 今後生まれるデブリの大半は、コンステレーション衛星から発生すると考えられています。各コンステレーション衛星は、ミッション終了後に軌道離脱(デオービット)する機構を保有しますが、故障した場合の軌道離脱のバックアップ手段を有しません。国際機関間スペースデブリ調整委員会(以下「IADC」)によるデブリ低減ガイドライン及び国連デブリ低減ガイドラインでは、低軌道(LEO)においては、衛星の運用終了後25年以内に、大気圏に突入し燃焼することでの廃棄を行うこと(Post Mission Disposal、以下「PMD」)とされています。軌道上の衛星のうち、運用終了後25年以内に大気圏に落下させることによる廃棄の成功率(Post Mission Disposal…
財務は有価証券報告書、株価は市場の公開情報。 数値の正確性は保証しません。 水色のセルは、次の基準を満たすときです。成長率20%以上/総利益率70%以上/販管費率10%以下/営利率20%以上/Rule of 40が40%以上/セールス効率150%以上/PSRがRule of 40×7以下/PGPRがRule of 40×10以下/PERが成長率×100以下/PBRが営利率×10以下/ネットキャッシュが時価総額の50%以上/EV/EBITDAが5倍以下/自己資本比率80%以上/ROE20%以上/ROA10%以上。